15. 1月 2014 · (168) 演奏会用序曲と交響詩 (2) はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

交響詩を作ったのはスメタナ、ボロディン、シベリウスのような国民楽派、サン=サーンスやフランクなどフランスで活躍した作曲家たち、ドイツではリヒャルト・シュトラウス。音楽外の要素と結びついた標題音楽の1分野で、わかりやすいようにタイトル(表題)やプログラム(標題)が付く場合もあります。

1850年ころにこの新しいジャンルを創始したのは、リスト。でも、彼の交響詩のうち《プロメテウス》(1850、1855改訂)や《ハムレット》(1858)は、初め序曲として作曲されました。リストはこの2曲を演奏会用序曲と呼ぼうと、ほとんど決めるところだったそうです1。ですから交響詩は、演奏会用序曲の発展形と言えます。

それでは、演奏会用序曲と交響詩の音楽上の違いは何でしょう? 答えは、ソナタ形式を使うか否か。18世紀、モーツァルトが《フィガロの結婚》などの序曲を作るときに使ったソナタ形式を、19世紀のメンデルスゾーンも使いました。序曲《ヘブリディーズ諸島(フィンガルの洞窟)》では、スケッチに書き留めた((167) 演奏会用序曲と交響詩 (1) 参照)短調の寂しい感じの第1主題と、ふっと日が射したような長調の優しい感じの第2主題が提示され、展開部をはさんで再現されます。

ソナタ形式は型が決まっています((66) 再現部は「ただいま」の気持ちで参照)。この型の中でストーリーを表現するのは、かなり難しいですよね。メンデルスゾーンが序曲の中で描いたのは、海から高く厳しくそびえる洞窟の「雰囲気」でした。

一方、交響詩には型がありません。リヒャルト・シュトラウスは交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》(正確には交響詩ではなく「音詩」)の中で、14世紀に実在した人の、民間伝承されたエピソードを描きました。作曲者によると冒頭部は「むかしむかしあるところに」。続くホルンによるティルの主題は、「いたずら好きの道化がおりまして、その名をティル・オイレンシュピーゲルと申します」。クラリネットによる第2のティルの主題は、「それはとびきりのいたずら者でありました」という口上に相当2。その後も型に押し込められること無く、魔法の長靴で高飛びしたり、牧師に扮して説教を垂れたりするいたずらを音楽で様々に表現しています。

もちろん、ただストーリーを描写しているだけではありません。リヒャルト・シュトラウスは、再現部(的な部分)を入れたり、ティルの主題を変形しながら何度も使うことで、音楽に構築感や統一感を与えています。《レ・プレ》のように、単一楽章の中に多楽章構造を組み込んだ交響詩も少なくありませんでした(((75) 《レ・プレ》とソナタ形式参照))。

このように19世紀後半は、ソナタ形式の枠組みの中で、それを変形・応用しながら序曲を作った作曲家たちと、標題を描くために独創的な形を捜しながら交響詩を書いた作曲家たちが、併存した時代だったのです。

  1. Temperley, Nicholas, “Overture” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 18. Macmillan, 2001, p. 826.
  2. マー、ノーマン・デル。オイレンブルク・スコア、リヒャルト・シュトラウス:交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》解説、杉山洋一訳、全音楽譜出版社、n.d.、ivページ。

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