18. 12月 2013 · (164) クリスマスに聴きたい音楽 part 6 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

仕事だ!コラムだ!練習だ!とばたばたしているうちに、2013年も残りわずか。「クリスマスに聴きたい音楽」の季節(!?)になりました。今回取り上げるのは《ヘンデルとグレーテル》……ではなく(失礼)《ヘンゼルとグレーテル》。ドイツでクリスマスの時期に上演される、フンパーディンクのオペラです。

森にいちご摘みに行かされた兄妹が見つけた、お菓子の家。喜んでかじっていたら、お菓子の家の魔女に捕まってしまいました。小間使い代わりに働かされるグレーテルは、檻に閉じ込められたヘンゼルを救出。2人で魔女をかまどの中に押し込むとかまどが爆発し、魔法でお菓子に変えられていた子どもたちが現われます。2人を捜しに来た両親も加わって神の恵みを讃え、幕。

作曲者エンゲルベルト・フンパーディンク(1854〜1921)は1890年のクリスマスに、このオペラの前身であるジングシュピール版を婚約者にプレゼントしました1。また、オペラ版の初演は1893年12月23日(指揮はリヒャルト・シュトラウス)。でも、昨年ご紹介した《くるみ割り人形》((112) クリスマスに聴きたい音楽 part 5)のように、クリスマスに直接関わるお話ではありません。この時期に上演される理由は?

グリム童話の中の怖さや残酷さが削られた、お子様向けのストーリー。兄妹が大好きなお菓子を食べまくったり、悪い魔女をやっつけたり、他の子どもたちを助けたりする痛快さに、子どもはわくわく。一方で「悪い事をするとばちが当たる」「魔女につかまらないように親のいいつけを守る」というような教訓が(押し付けがましくなく)伝わります。長さも手頃で、家族みんなで楽しめます。神へ祈りを捧げる場面もあり、まさにクリスマスの時期にうってつけ。

お勧めは、《ヘンゼルとグレーテル》の前奏曲。そう、序曲ではなく前奏曲です。ヴァーグナーみたい!と思った方、そのとおり。フンパーディンクは、ヴァーグナーに気に入られてバイロイトに招かれ、写譜や少年合唱の訓練を手伝うなど《パルジファル》の初演を補佐しました。《ヘンゼル》にもヴァーグナーの影響が見られます(《ヘンゼル》の第2幕への前奏曲は、その名も〈魔女の騎行〉)。

第1幕への前奏曲は、オペラの重要な旋律を使って全体の雰囲気を予示しています。冒頭のホルンのメロディー(《魔弾の射手》序曲を思い出しますね)は、森の中で眠くなった兄妹が歌う〈夕べの祈り〉(第2幕)。トランペットの元気なメロディー(2:22頃〜)は、グレーテルが第3幕でこっそりヘンゼルの魔法を解くときなどに使われます。森で目を覚ましたグレーテルが歌う旋律が弦楽器で続き(3:04頃〜)、その後のオーボエは、お菓子にされた子どもたちの魔法がとけるメロディー(3:31頃〜)。これらが対位法的に展開された後に〈夕べの祈り〉が戻るのは、オペラの最後でこの旋律を使った〈神は、み手を差しのべたもう〉が合唱されるからでしょう。

ヴァーグナー後に停滞していたドイツ・オペラの新しい道として、メルヘン・オペラ(メルヒェンオーパー)が流行しました。《ヘンゼルとグレーテル》は、そのほぼ唯一の生き残りです。素朴で親しみやすい民謡(風)旋律、ドイツ人の心の故郷である森を舞台にしたわかりやすいストーリーもさることながら、世紀末の厚いオーケストレーションや、ヴァーグナーのライトモティーフのような音楽の使い方も、大きな魅力になっています。

  1. Denley, Ian, “Humperdinck,” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 11. Macmillan, 2001, 837-8.

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