27. 11月 2013 · (161) シューベルトと《死と乙女》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags:

31年間の短い生涯に600曲を越えるリート(ドイツ歌曲)を作ったシューベルト。器楽曲にも転用しています。ニ短調の弦楽四重奏曲 D 810 が《死と乙女》と呼ばれるのは、同名の自作の歌曲に基づくからですね。同じく歌曲を変奏曲の主題に用いた、ピアノ五重奏曲《ます》D 667 も良く知られています。

《死と乙女》(D 531、歌詞はクラウディス)と《ます》(D 550、歌詞はシューバルト)は、1817年の作。前年に教師を辞め家を出て、作曲に専念。すでに交響曲5、歌曲300以上、ジングシュピール4、ミサ曲4、弦楽四重奏曲7を作曲しています。しかし、出版された曲もウィーンで公開演奏された曲も、皆無。

それでも、彼の名前や作品は次第に知られつつあったようです。ピアノ五重奏曲の依頼主(シュタイアー地方に住む、音楽好きでアマチュア・チェリストでもあったパウムガルトナー)は、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピアノというちょっと変わった編成とともに、歌曲《ます》の使用を注文しています。つまり、この曲が(一部にせよ)知られていたということですね。《ます》は、1821年に《魔王》が作品1として出版される前に、オーストリアの日刊紙 Wiener Zeitung の付録(1820年12月9日)として世に出ることになります。

一方、弦楽四重奏曲の下敷きに《死と乙女》を選んだのは作曲者本人。自作の数限りない歌曲の中から、6年も前に書いたこの曲の、しかもピアノ・パートを変奏曲の主題に使いました。主題の前半8小節は、歌曲のピアノ前奏部分。残りは、歌曲の第2節にあたる死神の歌から。真ん中の8小節は変形されていますが、最後の8小節は「落着いておいで! 私は乱暴なんかしない。

私の腕の中で、やすらかにお眠り!(西野茂雄訳)」部分のピアノ伴奏です。

前奏の最初「どーーどーどー(移動ド)」の同音反復は、曲のあちこちに使われています。弦楽四重奏曲とは思えない、激しさと厚い響きの第1楽章(だからこそ、後にマーラーが弦楽オーケストラ用編曲を思いついたのでしょうね)冒頭では、第1ヴァイオリンとチェロが同音反復「どーーーどどどどっ」。第4楽章も、アウフタクトを除くと「どっどどっ」と始まっています。速い6/8拍子の終楽章はタランテラ。南イタリアの都市タラントに由来すると言われ、毒グモのタランチュラにかまれたときこれを踊り続けないと治らない(毒が抜けない)という言い伝えがあります(つまりタランテラ自体、死と関わりのある音楽)。

第3楽章の短いスケルツォとトリオには、同音反復がありません。長調で作られたトリオは、ちょっとほっとできるところ。しかしよく見るとトリオの第2ヴァイオリンがこっそり、「そっそそっそー」と弾いています。旋律とも言えない、同じ高さの音の繰り返しは、こっそりと、しかし無慈悲に押された死神の刻印のようです。

1823年2月以降シューベルトは、梅毒の第2期の症状(口や喉の傷、関節痛、左腕の痛みなど)に悩まされます。3月には友人に「私は、自分がこの世で最も不幸で惨めな者だと感じます。2度と健康をとりもどすことができず、完全な絶望の中で、物事を良くするどころかますます悪くしている男を、想像してみてください……毎夜、床につきながら、自分が2度と目覚めなければ良いと思います。そして毎朝、前の日の悲しみを思い出すだけなのです」と書き送ります1。歌曲第1節、強い感じの乙女の歌や、長調になる後奏部分が全く使われないのは、将来に明かりが見えない作曲者の心情の反映でしょう。

ヴァラディーをフィッシャー・ディースカウが伴奏をしている《死と乙女》の動画をあげます。

  1. クペルヴィーザーへ。Winter, Robert, “Schubert.” The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol.22, Macmillan, 2001, p. 668.

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