08. 10月 2013 · (154) 《ライン》と循環形式 (1) はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

第9回定期演奏会で取り上げるシューマンの交響曲第3番変ホ長調作品97は、《ライン》のニックネームでおなじみ。スイス、フランス、ドイツ、オランダを通って北海に注ぐライン川流域には、前古典派時代にヨーロッパ1とも言われる宮廷楽団を持っていたマンハイム、ベートーヴェンの生地ボンなどがあります。

さらに下流のデュッセルドルフにシューマン夫妻が到着したのは、1850年9月2日1。ロベルトが引き受けた同市の音楽監督としての仕事は、10〜5月のコンサート・シーズンに8回ほどの定期演奏会を開く、一般音楽協会オーケストラと合唱協会の指導と、カトリック主要教会(聖マクシミリアン教会と聖ランベルトゥス教会)での、重要な祝祭日の礼拝音楽の采配でした。10月24日のデュッセルドルフ・デビュー演奏会では、妻クララをソリストに、メンデルスゾーンのピアノ協奏曲ト短調(第3回定演で有森先生に共演していただいた曲ですね)を演奏。素晴らしい出来だったそうです。

同じ日にチェロ協奏曲を完成したシューマンは、新しい交響曲に着手。ライン川上流にあるケルン大聖堂を、9月末に初めて訪れたときに受けたインスピレーションに基づくのかもしれないと言われています。作曲期間は11月2日から12月9日まで。当時の楽団員によると、最終的な形(交響曲定型からはみ出す5楽章構成)になったのは、シューマンが11月初旬に大聖堂を2度目に訪問した後。ケルン大司教が枢機卿に任命されたことが、終楽章の前に厳かな儀式を思わせるような楽章を加える動機になった可能性もあります。

図1:ケルン大聖堂、1856年

図1:ケルン大聖堂、1856年

1248年に建設が始められたケルン大聖堂ですが、1473年に中断。再開されたのは1842年。《ライン》作曲6年後の図1のように、まだ、高い塔が完成していませんでした。でも、確かに第4楽章は、聖職者たちが列を作って、石造りのゴシック様式の大聖堂の中を正面の祭壇まで静かに厳かに進んでいくような雰囲気。他の4つの楽章とは明らかに異質です。

おまけのはずのこの第4楽章が、実は音楽的な要。ホルンとトロンボーンが始める主要主題と、8分音符によるその縮小型(譜例1)は、終楽章で戻って来ます2。第5楽章コーダでは、4度上がって2度下がるジグザグ上行型(バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻第7番プレリュードの引用)の音価が拡大され、模倣されます(譜例2)。しかも、前の提示が終わらないうちに次が始まる(ストレットと呼びます)、音楽的に緊張度が高い形での引用です。また、8分音符の短縮形は、スケルツォの第2楽章中間部に予示されています。

このような「多楽章形式の楽曲において、同じ主題材料を全楽章あるいは数楽章に用いて、性格的統一をはかる手法」は、循環形式((92) 《新世界》と循環形式参照)でしたね。すでにリストやドヴォルジャーク、エルガーの例ご紹介しましたが、ロマン派作曲家シューマンももちろんこの手法を使っています。

4つの交響曲で用いられた循環手法はそれぞれ異なっていますが、《ライン》は、どちらかというと《第九》型。第1〜4楽章全ての主題が終楽章に現れるほど、緊密で徹底した使い方ではありませんが、終楽章が総まとめの役目を果たしています。第4楽章のジグザグ主題が、他の2つの楽章に予示&引用されるだけではありません。他にも終楽章で再び現われる主題がありますよね。しかも、ただ単にその旋律が戻って来るだけではなく……(続く)。

譜例1:シューマン作曲《ライン》第4楽章冒頭

譜例1:シューマン作曲《ライン》第4楽章冒頭

譜例2:同上第5楽章271〜9小節

譜例2:同上第5楽章271〜9小節

  1. 以下のデータは、Daverio, John, ‘Schumann.’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol.22. Macmillan, 2001, p. 785 による。
  2. 2つの譜例は、Horton, Julian, ed., The Cambridge Companion to the Symphony. Cambridge Univ. Press, 2013, pp. 202-3.  縮小型が戻って来るのは、第5楽章99小節目など。

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