18. 9月 2013 · (151) 生きてる? オーケストラ演奏会のプログラム (2) はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

(150) 歌が不可欠? オケ演奏会のプログラム (1) でご紹介した、ロンドンの同じ会場で行われた2つのオーケストラ定期演奏会。70年を経て、全体の曲数が減った以外の大きな違いとは? ヒントは作曲家です。各コンサートで取り上げられた作曲家は:

1、ザロモン予約演奏会、1791年5月27日

ロセッティ(1750〜91)
ザロモン(1745〜1815)
ハイドン(1732〜1809)
アンヌ=マリー・クルムフォルツ(1766〜1813)

2、ロンドン、フィルハーモニー協会定期演奏会、1861、3、18

†ヘンデル(1685〜1759)
†ベートーヴェン(1770〜1827)
パチーニ(1798〜1867)
メルカダンテ(1795〜1870)
†ヴェーバー(1786〜1826)
†メンデルスゾーン(1809〜47)
ベネディクト(1804〜85)
ロッシーニ(1792〜1868)

違いは歴然ですね。1の演奏会では、まだ生きている作曲家ばかり。一方2の演奏会では、生きているのは半数。声楽曲の作曲家が記録されていないザロモン演奏会と条件を合わせるためにパチーニとベネディクトを除くと、2/3(†印)が亡くなった作曲家です。

現在、聖フィルに限らずアマ・オケの演奏会で、存命の作曲家の作品を演奏することはほとんどありませんよね。ショスタコーヴィッチやハチャトゥリアンでも亡くなって30年以上経ちますし、聖フィルが今回取り上げるモーツァルトとハイドンは、200年以上! プロ・オケでも、特別なシリーズや委嘱作品を除くと、ほとんどが亡くなった作曲家の曲ばかりです。

でも、18世紀のコンサートは最近の音楽を聴くもので、古い作品を聴くという発想は一般的ではありませんでした1。したがって、生きているか、あるいはついこの前まで生きていた作曲家の作品が演奏されたのです。1781年に発足したゲヴァントハウス管弦楽団が1780年代の定期演奏会で取り上げた曲の中で、亡くなった作曲家の割合はわずか11%2。この割合が徐々に高くなり、1870年代には76%に。19世紀に設立されたパリ音楽院管弦楽団や、ロンドンのフィルハーモニック協会の定期演奏会でも同様で、1870年代にはそれぞれ78%と85%が、亡くなった作曲家の曲になります 3

変化の原因は? 18世紀まで作曲家は「職人」であり、曲は命令・注文されて、あるいは特定の機会のために作るものでした。このような(「交響曲」を含む)機会音楽は、多くの場合ほぼ使い捨て。また、オーケストラ演奏会における声楽曲や協奏曲は、曲を楽しむ以上にソリストの妙技を楽しむものでした。次々に新しい作品が求められたのは当然です。

これを変えたのが、ベートーヴェン。彼によって、開幕ベル代わりだった「交響曲」は、持てる力を全て注ぎ込んで、それまで誰も試みなかったような作品を作る記念碑的なジャンルに変貌しました。このように作られた9曲は、演奏会においてユニークな地位を得ます。

ゲヴァントハウス管弦楽団の定期演奏会では、1807年という非常に早い時期に、休憩後は交響曲(《エロイカ》)1曲だけという現在のようなプログラム構成が試みられました。他の交響曲も《第九》以外は1818年までに演奏され、その後、少なくとも3年に1度は取り上げられているそうです4

ロンドンのフィルハーモニック協会コンサートでも同様でした5。1825年(やはり第2部が1曲のみというプログラム構成で、《第九》のロンドン初演が行われた年。もともと、このオーケストラの委嘱がきっかけで作曲されたのでした)から34年までの計80回の定期演奏会中75回で、ベートーヴェンの作品(交響曲、協奏曲、室内楽、歌曲)が1曲以上取り上げられています。交響曲は全部で64回! 第5、6、7番は、この10年間、毎年欠かさず演奏されていました。ベートーヴェンと彼の交響曲の特別視する傾向は、1827年の没後に衰えるどころかますます盛んになり、19世紀を通して続きます。

生きている作曲家の作品中心から、亡くなった作曲家の作品中心へ。交響曲の在り方を変えたベートーヴェンは、音楽を享受する側の意識も変えました。プログラムの変化は、繰り返し演奏し試聴する「芸術作品」の成立の反映でもあるのです。

  1. ロンドンの Antient (sic.) Music コンサート・シリーズは例外的。「古代」と言ってもヘンリー・パーセル止まりでしたが。Weber, William, The Great Transformation of Musical Taste. Cambridge University Press, 2008, p. 70.
  2. 前掲書、p. 169.
  3. 同上。
  4. 前掲書、p. 175-76.
  5. Foster, Myles Birket, History of the Philharmonic society of London 1813-1912. London: John Lane, 1912. Internet Archive, http://archive.org/stream/historyofphilhar00fost#page/n0/mode/2up.