07. 8月 2013 · (145) a’=440になるまで (3):フランスは低かった はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

バロック・ピッチ、ドイツ((104)  (143))に続いて、今回はフランスについて。1680年以前にフランスで作られたパイプオルガンは、a’=388〜396Hz1。低いですね。したがって、礼拝堂ピッチ ton de chapelle と現在の標準音高の差は、2半音(=1全音)でした。

17世紀後半にできたパリ・オペラ座でも、同じ(低い)ピッチがオペラ座ピッチ ton de l’opera と名前を変えて使われました。フランスやオペラにかぎらず、歌い手にとってピッチは低ければ低いほどありがたいはず。現在のラは、オペラ座ピッチならシ。シまで出ると言う方が、ラまでよりも聞こえが良いですし。

木管楽器のピッチは高かったのですが、教会では使われなかったので問題ありませんでした。でも、新しいオペラ座のオーケストラに木管楽器を入れたい! → ピッチが合わない! → 設計し直さなければ!ということに。オペラ座が、オペラ座ピッチの楽器を揃えていて、奏者に貸し出した可能性もあります2

一方、世俗曲は? 「太陽王」ルイ14世の時代の室内ピッチ(宮廷ピッチ) ton de la chambre は、現在よりもおよそ1.5半音低い a’=404 くらいだったようです。現存する当時のフランスの木管楽器、オルガン、民俗楽器の多くから、これくらいの高さの音が出ます(同時代のイギリスでも、コンソート・ピッチと呼ばれるこの高さが支配的でした)。

ただ、オペラ座ピッチの木管楽器も残っているので、現在より1.5半音低い室内ピッチと2半音低いオペラ座ピッチが並行して用いられたのでしょう。現在、フランスのいわゆるバロック時代の音楽を演奏する際に、a’=392(a’=440 で12平均律の場合の、ラより2半音低いソのピッチ)が使われることがありますが、カンマートーンとして a’=415(同じくラより半音低いラ♭のピッチ)を使うのと同様、便宜上の数値であることを忘れないでください3

18世紀半ば、フランスにヴェネツィアの新しいピッチが到来。イタリアでは教会のオルガンに、高いピッチ(a’=464くらい)が使われていたのですが、1740年ころヴェネツィアで、それまでより半音低い、現在とほぼ同じピッチのオルガンが製作されるようになったのです4。ヴェネツィアの聖歌隊ピッチ corista Veneto と呼ばれるこの音高が他の楽器にも取り入れられ、18世紀末までにヨーロッパ中に広まりました。現在の標準 a’=440 は、このヴェネツィアのピッチに由来するとも考えられるそうです 5

  1. B. Hynes, ‘Pitch, §1: Wetern Pitch Standards,’The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 19, Macmillan, 2001, p. 795.
  2. 前掲書、p. 796.
  3. a’=392 をヴェルサイユ・ピッチと呼ぶ人がいるようですが、英語や仏語でこの語が使われているのを、まだ見たことがありません。
  4. 前掲書、p. 795.
  5. 同上。

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