06. 6月 2013 · (136) 《フィガロ》序曲のボウイング はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

次回の定演曲の1つ、モーツァルトの歌劇《フィガロの結婚》序曲。ソナタ形式で作られたこの曲の冒頭、弦楽器のユニゾンによる第1主題を楽譜どおりにさらって行った(私、弦楽器を担当しています)ら、ボウイングを直されました。1小節ごとにアップ、ダウンせず、2・3小節目(「れどれみふぁみふぁそらそらそら」まで)、4・5小節目、6・7小節目は一弓。パート・リーダーに「どこのオケでもこう弾いている」というような説明をされ、心の中でえーっ!?!

モーツァルトはヴァイオニストでした。ウィーンでは主にピアニストとして生計を立てましたが、ザルツブルク時代は宮廷楽団で、1769年11月14日から無給の、72年8月21日から有給のコンサート・マスターを勤めていました。だから、彼が書く弦楽器パートは自然で、あまり無理がありません(リストやシューマンと大違い! モーツァルトの弦楽器パートが簡単だという意味ではありませんので念のため)。

図1:《フィガロの結婚》序曲冒頭、モーツァルトの自筆譜

図1:《フィガロの結婚》自筆譜第1ページ(クリックで拡大します)

まず、自筆譜を確認(図1参照)1。12段五線紙の1番上がファースト・ヴァイオリン、1番下がチェロ、バスです2。モーツァルトのスラーは1小節ずつ。弦楽器はスラーの切れ目で弓を返しますから、1小節目ダウン、2小節目アップ、3小節目ダウンという具合に弾くことになります。旧全集も新全集も自筆譜どおり。

次に、ボウイングを確認。勤務先の音大図書館所蔵の映像を調べてみました。幕が上がる前だから、オーケストラが映っているだろうと思ったのですが、《フィガロ》の LD・DVD 計14種類のうち、4つはボウイングがわかりませんでした。オーケストラ以外が映っていたり(序曲をバックに舞台上でパントマイムが始まるものなど)、オケは映っているものの、第1主題の部分は4回(提示部2回、再現部2回)とも、指揮者の顔や管楽器が映っていたり3。でも、残り10種類のボウイングはばっちり。パート・リーダーが言うように、自筆譜のスラーを無視して2小節目から2小節一弓で弾いているものも、たくさんありました:

  1. ショルティ指揮パリ国立歌劇場管弦楽団(録画年1980)
  2. アッバード指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団(1991)
  3. バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団(1999)
  4. メータ指揮フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団(2003)

一方、モーツァルトが書いたスラーに従って、1小節ごとに弓を上げ下げしていたのは:

  1. ベーム指揮ウィーン・フィル(1966)
  2. エストマン指揮ドロットニングホルム宮廷劇場(1981)
  3. ゲーザ指揮コーミッシュ・オーパー・ベルリン(1986)
  4. ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ(1994)
  5. ハイティンク指揮ロンドン・フィル(1994)
  6. アーノンクール指揮チューリッヒ歌劇場(1996)

オリジナル楽器を使う団体や古楽系の指揮者はともかく、ベームの1966年ザルツブルク音楽祭ライブ録画も1小節ずつ。ある時期にボウイングが変わったわけではないのですね。テンポもあまり関係無いようです。上記6つのうち5つまでが、2分音符142〜1484。でも、2小節一弓の上記4人も2分音符144〜148で、変わりません5

スラーは、ボウイングの一弓、管楽器ではブレス無しの一息で演奏する記号として使われるときと、フレージングを示す記号として使われるときがあります。後者の場合、一弓・一息で演奏するにはフレーズが長過ぎて、途中で切らなければならないこともしばしばですが、この第1主題でモーツァルトが書いたスラーは、フレージングを示すものではありませんよね。わざわざ1小節ずつのボウイングを指定したのに、他のオケもそうしているからと変更してしまって、モーツァルトががっかりしないかな?? (137)に続く。

  1. Wolfgang Amadeus Mozart: Le Nozze di Figaro, K. 492, Facsimile of the Autograph Score,  Introductory Essay by Norbert Miller, Musicological Introduction by Dexter Edge. The Packard Humanities Institute, 2007.
  2. 2段目以降はヴァイオリンII、ヴィオラ、フルートI、II、オーボエ(1段で)I&II、A管クラリネットI&II、D管ホルンI&II、ファゴットI&II、D管トランペットI&II、ティンパニ。(35) モーツァルトのホルン協奏曲も参照のこと。
  3. 前者はペッペーノ指揮ロイヤル・オペラ・ハウス・オーケストラ(録画年2006)など。後者はプリッチャード指揮ロンドン・フィル(1973)など。
  4. 第2主題が出るまでの時間を計って、計算しました。
  5. アーノンクールだけは、2分音符126くらいで指揮しています。これについては改めて書きたいと思います。