22. 5月 2013 · (134) 楽器奏者が足りないとき はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

以前、オーケストラ・レポート((47) 見る人は見ている参照)で管楽器専攻の学生さんが、「オーケストラでは、必ず指定された楽器を使わなければならないの?」という素朴な疑問を書いていました。吹奏楽では、楽器が無いあるいは奏者がいない場合、そのパートは省略したり、他のパートと重なっていない部分を違う楽器で代奏したりします(私も高校時代、ブラスバンド部でした)。でもオーケストラでは、たとえ1曲だけしか使わない特殊な楽器でも、演奏会では賛助の方をお願いしますよね。管弦楽の楽器指定は絶対に守らなければならないもので、吹奏楽のような柔軟な対応は許されないのー?と思っていたら。モーツァルトが、自作を指定以外の楽器で演奏しても構わないと言っているではありませんか!

『イ長調』の協奏曲には、2本のクラリネットがあります。――もしそちらの宮廷にクラリネット奏者がいないなら、第1奏者がヴァイオリンに、第2奏者がヴィオラによって演奏されるよう、もとの調に、有能な写譜屋なら移調してくれるでしょう。――1

これは、1786年に書かれた手紙の中の、ピアノ協奏曲第23番イ長調 KV 488 についての記述。モーツァルトは同年8月8日、以前モーツァルト家の従僕であったゼバスティアン・ヴィンターを通じて、ドーナウエッシンゲンのヨーゼフ・ヴェンツェル・フォン・フュルステンベルク侯爵に「最近の」作品を売り込みました。9月30日付けヴィンター宛の手紙で、「自分のために、あるいは愛好家や音楽通の小さなサークルのために」書いた作品の中から、注文された交響曲3曲とククラヴィーア協奏曲3曲の楽譜を、翌日別便で送ると報告。クラリネットの対処法を書き、写譜代119フロリーン39クロイツァーを請求しています。

彼の時代、この新しい楽器((113) 愛の楽器? クラリネット (1)参照)を吹ける人は多くありませんでした。パリのコンセール・スピリテュエルや、マンハイム宮廷のような、クラリネットが2本揃ったオーケストラは例外的((115) 同 (2)参照)。「侯爵様はオーケストラをお持ち」だけれど、おそらくクラリネット奏者はいないだろうと考えたのでしょう。

なぜ侯爵が、奏者のいない楽器を含む曲を選んだのかという疑問(他の5曲はクラリネット無し)は、すぐに解けました。手紙の中には、室内楽以外の曲の楽器編成が書かれていなかったからです。図1のように、最近作のリストは冒頭3〜4小節の旋律(インキピット、インチピットとも)のみ。速さと調しかわかりません。つまりモーツァルトは、注文主が曲を選ぶ際に、楽器編成(特にクラリネット・パートの有無)は重要ではないと考えたということ。奏者がそろわなければ他の楽器を使えば良いのですから。

このヴィンター宛ての2通は、モーツァルトが自分の定収入を増やすために考えたアイディア(毎年、フュステンベルク侯のために何曲かの新作を書いて、年棒を受け取るという彼の提案は、実現しませんでしたが)などを伝える、貴重な資料になっています。しかし私は、オーケストラにおける柔軟な対応や代奏の容認という点からも、もっと注目されるべきだと思います。クラリネット代わりに弦楽器という指示も、興味深いですね(これについては改めて書くつもりです)。

図1は、8月8日の手紙にモーツァルトが同封した、インキピットのリスト2。五線紙の上の余白には、シンフォニーア(交響曲)、ヴォルフガング・アマデーオ・モーツァルトと書き込まれています(1段目の曲の速度記号も)。10段ある五線各段の記入事項は:

  1. 1(KV 425 36番《リンツ》) 2(KV 385 35番《ハフナー》)
  2. 3(KV 319 33番) 4(KV 338 34番)
  3. チェンバロ協奏曲(クラヴィーア協奏曲)
  4. 1(KV 453 17番) 2(KV 456 18番)
  5. 3(KV 451 16番) 4 (KV 459 19番)
  6. 5(KV 488 23番、クラリネット入り)
  7. ヴァイオリン付きチェンバロ・ソナタ(ヴァイオリン・ソナタ) チェンバロ、ヴァイオリン、チェロのための3重奏曲(クラヴィーア3重奏曲)
  8. (KV 481 KV 496)
  9. チェンバロ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための4重奏曲(クラヴィーア4重奏曲)
  10. (KV 478)

五線紙右側の余白の文字は「線引きして消していないものは選んだもの。1786年9月11日。ドーナウエッシンゲン、S. ヴィンター」。計6曲が、モーツァルトのインクよりも黒い色の、斜線によって消されています。下から3段目の斜線があまり黒くないのは、書き込んだ時期が違うためかもしれません。これだけの材料から、侯爵がどうやって6曲を選んだのか、ちょっと不思議ですね。

図1:モーツァルトの手紙(1786年8月8日)に添えられた、最新作のインキピット

図1:モーツァルトの手紙(1786年8月8日)に添えられた、「最近作」のインキピット

  1. 『モーツァルト書簡全集 VI』海老沢敏・高橋英郎編訳、白水社、2001年、299–304。他の短い引用もこの資料から。
  2. バーデン州立図書館HPより。Badische Landesbibliothek, Don Mus. Autogr. 44.

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