08. 5月 2013 · (132) 楽譜どおりに演奏しても足りない場合:通奏低音 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,
譜例1:Corelli 作曲 Concerto Grosso op. 8, no. 6

譜例1 コレッリ:コンチェルト・グロッソ op. 6-8(クリックで拡大します)

季節外れですみませんが、譜例1は(59) クリスマスに聴きたい音楽 part 3(61) 楽譜どおり演奏してはいけない場合:バロック音楽の付点リズムでご紹介した、アルカンジェロ・コレッリ作曲《クリスマス・コンチェルト》原典版スコアの冒頭。上3段は独奏楽器であるヴァイオリン2つとチェロ((61) 譜例1はこの部分)、下4段は伴奏楽器群(ヴァイオリン2つとヴィオラ、バス)。この6小節間は、1番上と4段目のヴァイオリン I、上から2段目と5段目のヴァイオリン II、チェロとバスの楽譜は、それぞれ全く同じです。

コレッリが書いた7パートを演奏すれば音楽が完成するか? 実はこれだけでは足りません。CDを聴きながら耳を澄ますと、チャカチャカとかポロポロとか、弦楽器以外の音が聴こえます。そう、バロック音楽にはチェンバロ(ピアノのご先祖さまの鍵盤楽器。英語ではハープシコード)が付きもの。でも、スコアにはチェンバロ・パートはありませんね。どこを弾くの?

答えは、1番下のバス・パート。これはコントラバスのバスではなく、Basso Continuo (イタリア語。バッソ・コンティヌオと読みます)のバス。継続される低い音ということで、日本語では通奏低音と呼びます。バロック時代の特殊な伴奏法で、コラムでも既に(詳しい説明をしないまま)何度も使いました。この1番下のパートは、チェロやファゴット、ヴィオラ・ダ・ガンバなどの低音旋律楽器が弾くパートで、チェンバロ奏者も左手で弾きます。

右手で弾くべき楽譜はありません。右手も左手と同じ音をユニゾンで弾く……わけではなく、右手は遊んでいる……わけでもなく、右手は左手の低音旋律に合う和音を即興で弾くのです。譜例1のように、多くは弾くべき和音が数字で示されます。ジャズなどで使うコード・ネームのようなものですね。

譜例1の数字の読み方を簡単に説明します。数字が書かれていない場合は、右手で低音の3度上と5度上の音を弾きます(たとえば1小節目のソにはシ♭とレ)。6と書かれていたら、3度上と6度上の音(たとえば3小節目のシ♭の上には、レとソ)。縦に56と書かれていたら、3度上と5度上と6度上の音(たとえば3小節目の2拍目のシ♮には、レファソ)。いずれも、左手の音も弾いてオーケー。また即興ですから、弾きやすい音域の弾きやすい形で弾きます。たとえば1小節目のソシ♭レの和音は、レシ♭でもシ♭レでもシ♭レソでもレソシ♭でも構いません。

数字に♯♭♮が付いていたら、臨時記号に従ってその数字の音を半音変化させます。♯の代わりに+がついたり、2小節目のように数字に重ねて斜線が書かれることもあります(2小節目ラの上に弾く音は、6♯なのでファ♯とド)。数字が無いところに♯♭♮が書かれていたら、3度上の音を変化させよという意味。

もちろん、指定された和音を延ばすだけではなく、主旋律をまねしたり合いの手を入れたり、長い音符を分散和音で飾ったり、和音の中で自由に即興します。ハープシコード以外に、オルガンやリュートも使われました。通奏低音は記譜の手間が省けますし、楽器によって異なる特徴を活かした伴奏ができます。

というわけで、バロック時代の作曲家はチェンバロ・パートを作曲しませんでした1。現在の演奏用パート譜に含まれるチェンバロの楽譜は、校訂者が(数字から)和音を補ってくれたもの。一つの例に過ぎませんから、時代様式に合う趣味の良い内容であれば、自分なりの即興に変えて弾いてもよいのです。通奏低音はバロック時代のあらゆる編成の曲に使われましたが、古典派の時代になると衰退してしまいました。

  1. チェンバロをオブリガート楽器として使ったり、協奏曲の独奏楽器として使った場合を除く。