14. 2月 2013 · (120) チャイコフスキ―のピアノ協奏曲はなぜ変ロ短調か はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

告白しますが、私、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の調性がなぜ変ロ短調なのか、つい最近までず〜っと悩んでいました。ホルンのユニゾンによるオープニングは確かに変ロ短調。でも、ピアノの分厚い和音「じゃん! じゃん!! じゃん!!!」にのせて、ヴァイオリンとチェロが朗々と、モルト・マエストーソ(非常に堂々と)の旋律(譜例1)を奏でる部分、どう考えても短調ではありませんよね。変ロ短調の平行調((77) 近い調、遠い調参照)、変ニ長調です。ソナタ形式で作られた曲の調性って、序奏ではなく主部の調で決まるのに、どうして変ロ短調なの?

4月の第8回定期演奏会のためにこの曲を練習してみて、ようやく謎が解けました。ものすごく印象的なため、第1主題と思い込んでいたこのマエストーソ旋律、再現されないのです。ピアノが「じゃじゃん! じゃじゃん!! じゃじゃん!!!」と付点リズムの和音を添える部分は、冒頭の「じゃん! じゃん!! じゃん!!!」部分の繰り返し。まだ序奏の続きです。

主部、すなわち提示部は、4拍子アレグロ・コン・スピリト(快速に、生気に満ちて)に変わったところから。3連符の3つ目が休みの「たらっ、たらっ、たらっ、たらっ」のリズムでピアノによって示される第1主題(ウクライナの盲目の歌手の歌)は変ロ短調で、これがこの協奏曲の主調になります。

でもチャイコフスキー、わざと勘違いさせるように作っています。序奏部は通常、主部よりも遅いことが多いのに、この曲では主部だけでなく序奏部もアレグロ。まあ、序奏部ではアレグロの後に「ノン・トロッポ(あまりはなはだしくなく)」と続くし、音楽の雰囲気も重いのですが、主部とのテンポのコントラストが小さいため、境い目がはっきり感じられません。それに、序奏部が長い。小節数で楽章全体の1/6近くを占めます。しかもその存在感! 重厚かつピアニスティックな独奏パートには(ミニ・)カデンツァまで置かれて、まだ導入部分であることを忘れてしまいます。

それにしても、第1主題の印象を薄くしてしまうほど圧倒的なマエストーソ旋律、第1楽章の冒頭だけなんてもったいなーい! と思ったら、この序奏主題の「痕跡」が、他の部分に残されているとも考えられるのですね。「痕跡」のうちの1つは、激しいロンド主題が躍動する終楽章の中の、おおらかで叙情的な旋律(譜例2)1。序奏主題と類似性が見られるというのです。

譜例1と譜例2の旋律、似ているでしょうか。共通点と言えば、どちらも3拍子であることと、8分音符が目立つことくらい。旋律の作りや輪郭は、特に似ていませんよね。でも、旋律の性格、つまり滔々と流れる雄大な感じは共通しています。印象的な譜例1の序奏主題、そのままの形では戻って来ないものの、譜例2のように形を変えて終楽章に回帰するという解釈、なるほどと納得させられました。この旋律は最後に変ロ長調で勝利の凱歌のように歌い上げられ、クライマックスを形成するのです。

introT1

譜例1:チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 序奏主題

finalT1

譜例2:同上 終楽章 叙情的な主題

  1. Wiley, Roland John, “Tchaikovsky” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 25. Macmillan, 2001, p. 150。彼はその他に、構造(その後の主題も導入部を備えていること)と、調(全楽章を通じて、叙情的な主題は同じ変ニ長調で現れる)への「痕跡」をあげています。