表1:楽士の給料リスト(1772年1月。クリックで拡大します)

(100) ホルン奏者が多い理由 表1「楽士の給料リスト」(右に再掲)に対する、ぼんじゅーるむっしゅさんからの3つの質問について考えてみましょう。

  1. リスト右側のお金の単位「f」と「Xr」は?
  2. 今の値段にするといくらくらい?
  3. 必ずしも正比例して上下していないが、何の順序か?

まずお金の単位は、fがフロリン、Xrがクロイツァー。1フロリン=60クロイツァー=1グルデン=16グロッシェン1

ハイドンの月給47フロリン50クロイツァーは、楽士の中の最高額(当たり前ですね)。2番目はソプラノ歌手のフリベルト、3番目がコンサート・マスターのトマジーニ。1741年生まれの彼が、1761年5月に従僕(兼楽士)として雇われたときの月給は、わずか12フロリン30クロイツァー 2。10年で、給料が3倍以上に増えました。もちろん、ハイドンも何度か昇給しています3

  • 1761年5月(エステルハージ家アントン候の副楽長として採用):年棒400フロリン(年4回分割)+従僕の食堂で食事をとるか、あるいは食事手当として1日半グルデン受け取ることができる((55) ハイドンの場合参照)
  • 1762年6月(3月18日アントン候死去。弟ニコラウス候が当主に):年棒600フロリンに
  • 1763年5月:年棒782フロリン30クロイツァーに。増額(182グルデン30クロイツァー)は食事手当

182グルデン30クロイツァーは、1年365日毎日、半グルデンずつ受け取った場合の金額です。休暇などの有無にかかわらず、この固定額を保証するということでしょうか。いずれにしろ、わずか2年間で給料は採用時のほぼ倍になりました。1766年に楽長になった時も給料は変わりませんでしたので、表1の1772年の年棒もこの額のはずですが……。47フロリン50クロイツァーを12倍しても、574フロリンにしかなりませんね。年棒の12等分を支給されるわけではなかったのでしょうか? まだ完成しておらず何かと不自由なエステルハーザ宮で過ごす夏の間の方が、エステルハージ家の本拠地アイゼンシュタットで過ごす冬の間よりも、給料が高かったという可能性はあるかしら……?

次に、この月給が今の値段でどれくらいか。これは超難問! 当時、エステルハージ家で購入していた日用品の値段と較べてみましょう(f=フロリン、Xr=クロイツァー)4

  • 肥えた大人の豚1頭(以下同)が10〜12f、小さな豚が6f、猪が4f、雄牛が10〜11f、乳牛が8f
  • アメリカ産ココア1ポンド(=560g。以下同)が1f 36Xr、オランダ産チーズが20Xr、米が10Xr
  • アイゼンシュタットのローカル・ワイン半リットルが1.5〜3Xr、およそ1リットルのビールが2Xr、牛肉1ポンドが4〜5Xr、がちょう1羽が16Xr、卵4個が1Xr
  • ヴィーンの仕立屋で、絹の裏地付き最上級スーツ1着が46f 48Xr、最安値が7f、コートが14〜26f

ということは、ハイドンの月給47フロリン50クロイツァー(=2870クロイツァー)は、およそ、豚や雄牛4頭分、乳牛6頭分、米160kg分、ビール1435リットル分、卵11480個分になります。

今の値段でどれくらいか、近所のスーパー(豚や牛は売っていませんが)で市場調査。米5kgが2500円くらいなので、160kgで80,000円。缶ビール500ml1缶265円で計算すると、1435リットルは約190,000円。卵10個1パック200円として、1148パック分は229,600円。うーん、イメージがわかない……。この比較、あまり意味がありませんでした。

ちなみに、17、18世紀において「700フロリンもあればふつう程度の家庭を維持していけた」が、「700フロリンという額は役職がついた場合で、ふつうの音楽家は400〜500フロリン程度の年収」だったそうです5。エステルハージ家の楽士23人中14人は、リストの額を12倍しても400フロリン以下。はたして彼らは生きていけたのでしょうか。次回に続く。

  1. この時代の通貨は国により地域により様々で、換算もとても複雑です。あまり詳しいことはわかりませんが、フロリンはイタリアのフィレンツェで発行された金貨に由来。一方、グルデンはオランダの貨幣単位(英語ではギルダー)。古オランダ語の意味(「金の」)が示すように、もとは金貨。両者はしばしば入れ替え可能です。ここではすべてフロリンで統一しました。
  2. H. C. Robbins Landon, Haydn: Chronicle and Works, Haydn at Esterháza 1766-1790. Thames and Hudson, 1978, p. 80.
  3. 同書, p. 41.
  4. 同書, pp. 33-4.
  5. 西原稔「音楽家の仕事と収入」『モーツァルト全集1』小学館、1990、74ページ。