05. 7月 2012 · (88) さらに刺激的 (!?) に:ソナタ形式の変遷 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

ソナタ形式の考え方シリーズ④は、短調の場合を考えます。図1は、シリーズ②((72) 第2主題は「ようこそ」の気持ちで)で掲げた、ソナタ形式の基本。主調が短調であろうと長調であろうと、再現部では第1&第2主題が主調で再現されます。

図1:基本のソナタ形式

たとえばモーツァルト。50曲ほどの交響曲((14) モーツァルトが作った交響曲はいくつ?参照)の中に、短調の曲は2つ。旧番号の25番と40番で、いずれもト短調です。両曲の第1楽章では、第2主題は平行調((77) 近い調、遠い調参照)、つまり3度上の長調である変ロ長調で提示され、主調のト短調で再現されます。図1のパターンですね。

彼の、18曲中2つだけの短調のピアノ・ソナタ(イ短調とハ短調)も同様。50曲弱の協奏曲の中に2つだけある短調の曲(ニ短調とハ短調のピアノ協奏曲)でも、第2提示部((73) 協奏曲のソナタ形式参照)で第2主題が平行調(それぞれヘ長調と変ホ長調)で提示され、主調で再現されます。

さて、ベートーヴェンではどうでしょうか。《運命》交響曲で、第1楽章提示部の第2主題は、運命主題を使ったホルン・コール((2) 《運命》第1楽章はふりかけごはん参照)に導かれる、ファースト・ヴァイオリンのドルチェの旋律。主調ハ短調の平行調、変ホ長調で提示されます。同じ旋律が再現部で、ファゴットに導かれて再登場する時……あれれ、また長調? 主調ハ短調ではなく、同主調であるハ長調で再現されます。図1と異なりますね。続くロマン派の時代、短調の曲にはこの《運命》第1楽章の型(図2参照)が広く使われます。

図2:ベートーヴェン以降のソナタ形式

この変化は何を意味するのでしょう。ソナタ形式の元になった形において、ごく初期には、主調が長調でも短調でも、2つ目の旋律は5度上の属調で示されたそうです。短調の曲では、2回ずつ使われる2つの大事な旋律は、すべて短調で奏されていたわけです。しかし、もっと刺激が欲しかったのでしょうか、図1のように第2主題が長調で提示される型が定着します。これで、人々は2つの楽しみを味わうことができるようになりました。まず提示部で、短調で示される第1主題と長調で示される第2主題のコントラストを楽しみます。さらに再現部では、提示部で長調で出された第2主題と、今度は短調に移されて示される第2主題のコントラストを楽しむのです。

やがて人々は、短調の第1主題と長調の第2主題によるコントラストを、提示部で1回味わうだけでは足りない、再現部でも味わいたいと考えるようになります。ずいぶん前に終わってしまった提示部第2主題とのコントラストよりも、今、終わったばかりの再現部第1主題とのコントラストが、欲しくなったのですね。でも、もうすぐ主調で音楽を閉じなければならない再現部後半。第2主題で、ふらふらと遠くの長調へ遊びに行くわけにはいきません。最も近い関係にある同主調(長調)で、第2主題を再現する形が定着するのです。

長調同士、短調同士である主調 ⇔ 属調の転調とは異なり、長調と短調の行き来は、楽譜を見ていなくても、絶対音感の持ち主でなくても、コントラストを感じることができます。そのコントラストを、味わえないよりも味わうことができる方がよいし、1回よりも2回楽しみたい。新しいことに慣れると、さらに大きな刺激 (!?) が欲しくなるもの。ソナタ形式の変遷は、そんな私たちの心を映し出しているようです。