05. 10月 2011 · (49) ベートーヴェンのピアノ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

ボンのベートーヴェン・ハウス(ベートーヴェンの生家にある記念館)のおみやげの絵葉書(図1)。彼が所蔵していたピアノが写っています。現在のピアノとどこが違うでしょうか。

図1 ベートーヴェンのピアノ(グラーフ製)

図1 ベートーヴェンのピアノ(グラーフ製)

色や、譜面台の形が違いますね。他には? 注意していただきたいのは鍵盤です。黒鍵が2つ、3つ、2つとまとまっていて、その右に白鍵が2つ。だから、1番右の白鍵はファです。低い方はちょっと見にくいけれど、同じように2つ、3つ、2つと黒鍵をたどると、1番左の白鍵は黒鍵2つの左隣のドです。あれれれ? ピアノって、1番下がラで1番上がドじゃないの……?

そうです。このピアノ、鍵盤の数が違います。現代のピアノは全部で7オクターヴ+3度の88鍵ですが、このピアノはドからファまで6オクターヴ+4度の78鍵。10鍵少ないのです(が、意外な盲点らしく、ピアノ科の学生さんにこの写真を見せてもなかなか気付きません)。

78鍵でも、このウィーンのグラーフ製ピアノは当時としては大きいのです1。ベートーヴェンが所蔵していたピアノは3台現存しますが、1818年に贈られたロンドンのブロードウッド製は、ドからドまで6オクターヴ73鍵(図1の向こう側に見えるのが、それと同型のピアノ)。1803年に贈られたパリのエラール製のピアノは、ファからドまでの68鍵しかありません。

弦を叩く強さによって、弱い(ピアノ)音も強い(フォルテ)音も出すことができるから、ピアノフォルテと名付けられた楽器。弦をはじいて音を出すために音量が小さく、かつ強弱の差が無い鍵盤楽器チェンバロは、このピアノフォルテ(略してピアノ)によって取って代わられました。古典派の時代に改良が進みます。ピアニストとしても有名だったベートーヴェンに、ピアノ製作者たちは最新式のピアノを寄贈し、ベートーヴェンは新しいピアノの特色を活かした曲を作りました。彼のピアノ作品は、音域が広がり音量が増しタッチが深くなるといった、当時のピアノ改良の歴史を反映しています。

ただ、上のグラーフ製のピアノの音を聴くと、現代のピアノの音とずいぶん異なる(特に高音域)ことがわかります。現在のピアノに至るには、フレームやハンマー、打鍵メカニズムなどにまだまだたくさんの改良が必要でした。ベートーヴェンや同時代の人々が聴いたりイメージしたピアノの音は、私たちのそれと似て非なるものだったのですね。現代の楽器と区別するために、ピアノの前身楽器を「フォルテピアノ」あるいは「ハンマーフリューゲル」と呼ぶことがあります(フリューゲルはドイツ語で「翼」)。絵葉書と一緒にもらったCDには、図1のグラーフ製ピアノで演奏したベートーヴェンのピアノ・ソナタ op. 110 と、op. 126 のバガテルが収められていました。同じピアノによるベートーヴェン最後のピアノ・ソナタ op. 111 は、こちらから試聴できます。

  1. マホガニー材、奥行き2.43m。低音域14鍵のみ3重弦張り、残りはすべて4重弦張り。耳が聞こえなくなったベートーヴェンのための特注と考えられています。

Comments closed