07. 9月 2011 · (45) いびつな真珠 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

音楽史の7つの時代区分の1つ、バロック時代((27) 音楽史の時代区分参照)。このバロックという言葉が「いびつな真珠」を意味するポルトガル語「バロッコ」に由来するという説は、よく知られていますね。ビーズ専門店で売られている、様々な形の「バロック・パール」と同じバロックです。

真珠は真円であることに価値があります。バロックであるということは、歪んで価値が無いということ。啓蒙思想家ルソーは、『百科全書』補遺(1776)の中でバロックな音楽を以下のように定義しています。

音楽におけるバロック。バロックな音楽というのは、和声が混乱し、転調や不協和音が多すぎ、音の抑揚が難しく、そして無理な動きをしているような音楽を言う1

若いシャイベがバッハの声楽曲を「あまりに技巧的で、誇張され混乱した芸術」と批判したことも思い出されますね((28) バロック時代はなぜ1750年までか?参照)。バッハの音楽はバロックでいやしいと言われたわけです。

これはどういうことでしょうか。たとえばバロック音楽を代表するオペラでは、登場人物の感情が聴衆にしっかり伝わるように、少々大げさでストレートな表現が不可欠です。悲しみや怒りなどを表すには、不協和音や突然の転調が使われました。ルネサンス時代に重視された均整や調和よりもむしろ、動きが求められます。このような新しい感情表現の手法は、保守的な人々の耳に不快に響いたことでしょう。声楽や器楽の即興に用いられる装飾が、時に大げさで悪趣味だったかもしれません。

19世紀末から20世紀にかけて、美術史家ヴェルフリンらによって、まずバロック芸術の中の美術が再評価されました。軽蔑的な色合いを取り除き、前のルネサンス時代の音楽とは対照的な、独自の様式と性格の価値を認めたのです。この考え方をザックス(民族音楽学や楽器学で有名)が音楽史に導入し、「バロック音楽」という論文を書いたのが1920年。今日では語源のネガティヴな意味は薄れ(と言うか忘れられ)、バロック音楽は、率直でいきいきとした感情表出や、躍動感あふれる音楽と捉えられています2

  1. 服部幸三『西洋音楽史:バロック』(音楽之友社、2001)27ページ。ルソーはいびつな真珠ではなく、イタリア語の論理学の用語を語源としてあげています。
  2. フランスではデュフルクのようにバロック時代という用語を避ける傾向がありました。