17. 8月 2011 · (42) 神の楽器? トロンボーン part 1 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

質問です。次の3つの中で正しくないのはどれでしょう?

  1. トロンボーンは神聖な楽器なので、16世紀に教会で用いられた。
  2. トロンボーンは神聖な楽器なので、17、18世紀にはオペラで使用できなかった。
  3. トロンボーンは神聖な楽器なので、19世紀にベートーヴェンが導入するまで、交響曲に用いられなかった。

もしかしたら 3つとも正しい? 今回は1について考えてみましょう。確かにトロンボーンは、ルネサンス時代に例外的に教会で使われた楽器の1つです。それは、トロンボーンが神聖な楽器だったから?

本来、教会で演奏されるのは無伴奏の声楽曲でした。人の声(正確には男の人の声)はもっとも純粋で、神へ祈りを捧げるのにふさわしいと考えられたのですね。現在、ポピュラー音楽も含めて無伴奏の合唱・重唱曲を指す「アカペラ」という言葉は、イタリア語で「礼拝堂で(ア・カペッラ a cappella)」という意味です。ただ、ルネサンス時代のキリスト教の多声音楽は、(7) クリスマスに聴きたい音楽 part 2でご紹介したパレストリーナのミサ曲のように、とてもとても複雑。訓練された聖歌隊員たちでもそのまま歌うのは至難の業でした。

無伴奏の合唱の音程が狂わないように、パイプオルガンと並んで使われたのがトロンボーン。これには、2つの理由が考えられます。1つは、トロンボーンが人の声と溶け合う柔らかな音色も持っていたこと。同じ低音域の楽器でも、ファゴットには難しいことです1

もう1つは、全ての音高を奏することができる楽器だったこと。19世紀にヴァルブ・システムが普及するまで、トランペットもホルンも出せる音が限られていました。スライドを持つトロンボーンだけが、聖歌隊の各声部の旋律をそのまま吹くことが出来たのです2

というわけで、質問の1は原因と結果が逆です。トロンボーンは聖歌隊を支える条件を満たし、教会で使われていたため、神聖な楽器とみなされるようになりました。

現存する最古のトロンボーンは、1551年にニュルンベルクで作られたテナー(B♭管。ベルは漏斗型で直径12cmほど)ですが、さらに古い15世紀末に描かれた図像(図1)をご紹介しましょう3。500年以上も前のトロンボーンの形、現在と変わりませんね。右下の天使は、パイプとダルシマー(箱型の本体にたくさん張られた金属弦を、ばちで打って音を出す楽器)を演奏しています。

図1 最古のトロンボーン図像、リッピ『聖母被昇天』部分(1488−93)

図1 最古のトロンボーン図像
リッピ『聖母被昇天』部分(1488−93)

  1. 初期のトロンボーンはベルが漏斗型で小さく、ファンファーレや戸外の音楽用の大きな音とは別の、静かでニュアンスに富んだ音を出すのが容易だったそうです。Herbert, Trevor “Trombone” in The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 25, Macmillan, 2001, p. 789.
  2. (37) ヴィオラはえらい?で書いたように、トロンボーンは「大きいらっぱ」を指す言葉で、イギリスやフランスでサックバットなどと呼ばれた楽器のように、必ずしもスライド付きだったわけではないそうです。同書、p. 766.
  3. フィリッピーノ・リッピ『聖母被昇天』部分、フレスコ画、1488〜93、ローマ:サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会のカラファ礼拝堂。