13. 7月 2011 · (37) ヴィオラはえらい? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

「居なくてもきっとなにも変わらないさ」(槇原敬之「ビオラは歌う」)と歌われてしまったヴィオラ。以前、コメントをくださった生涯一中提琴さんとお約束した、「中提琴(中国語でヴィオラ)はえらい?」の立証にトライしてみましょう。以下の3つの理由でヴィオラはえらい……か?

1. 弦楽器のイタリア語名はヴィオラ viola に由来するからヴィオラはえらい?

  • ヴァイオリン violino = viola + イタリア語で縮小の意味を表す接尾辞 -ino = 小さなヴィオラ (Andante → Andantinoも同様)1
  • コントラバスのご祖先ヴィオローネ violone = viola + 増大の接尾辞 -one = 大きなヴィオラ(トロンボーン trombone は tromba らっぱ + -one で大きならっぱ)
  • チェロ violoncello =大きなヴィオラ violone + 縮小の接尾辞 -ello=小さな大きなヴィオラ

ここまではご存知の方も多いと思いますが、残念ながらこのヴィオラは中提琴ではありません。ヴィオラやヴィオールという言葉は、中世以来ヨーロッパで、弓で音を出す擦弦楽器の総称として使われました。16世紀の始めに、ヴィオラ・ダ・ガンバ属とヴィオラ・ダ・ブラッチオ属に分かれ、後者がヴァイオリン属を形成していきます((31) 仲間はずれはだれ?参照)。中提琴はえらい……わけではありませんでした。

2. 音響学的に不利だからヴィオラはえらい?

まず音域を考えてみましょう。単純に言うとヴィオラは、ヴァイオリンのE線を取り去ってあとの3本を残し、下にC線を加えたような楽器。ヴィオラの最低音はヴァイオリンより5度低くなります。一方チェロはヴィオラと同じ「どそれら」調弦。最低音はヴィオラよりも1オクターヴ、つまり8度低いのです。

次に楽器の大きさを思い浮かべてください。チェロはヴィオラに比べてずっーと大きいのに、ヴィオラとヴァイオリンの差はわずか。8度の音程差でチェロがヴィオラよりあれだけ大きいのなら、5度の音程差があるヴィオラだって、本当はヴァイオリンよりかなり大きいはずですよね。

ヴァイオリンと音響学的に同等のヴィオラを作るとすると、ネックを除く本体の長さが約 53cm 必要だそうです2。低音弦も豊かに美しく響くこの理想的なサイズは、しかしながら腕に対して長過ぎて演奏不可能。だから、現在の約40cmほどの大きさに押し込んでいるのです。楽器構造上の無理は、ヴィオラの音色や音量に影響します。それでも、本来の大きさの楽器から輝かしく力強い音色を奏でるヴァイオリンやチェロに、渋い音色で対抗しているのだから、ヴィオラはえらい!!……かも。

3. 重視されなかったバロック時代を生き抜いたからヴィオラはえらい?

バロック時代、アンサンブルにおいてヴィオラがソロとして扱われるのは(フーガを除くと)非常に稀でした。また、17世紀以降、数えきれないほどのヴァイオリン協奏曲やたくさんのチェロ協奏曲が作られた一方で、最初のヴィオラ協奏曲がテレマンによって作られたのは1740年頃。しかもこの時代のヴィオラ協奏曲は、他にわずか3曲だけなのだそうです3

バロック時代には、同じ音域の楽器2つによる独奏のかけあいを、通奏低音(この時代特有の伴奏体系)で支えるトリオ・ソナタと、独奏+通奏低音のソロ・ソナタが流行します。ヴァイオリンはしばしば独奏楽器として、チェロは通奏低音を担う楽器として重要でしたが、ヴィオラには出番がありませんでした4。ヴィオラの個性が求められるようになったのは、ハイドンやモーツァルトによって、弦楽四重奏曲が声部均等に(部分的にせよ)作られるようになってから。長い間、廃れず地味に存続し、「誰かの為の旋律」(槙原)を歌うようになったヴィオラはえらい……。

というわけで生涯一提琴さん、「ヴィオラはえらい」ではなく「ヴィオラは健気!!」という結論になってしまいました。どうぞご了承ください。

  1. 女性形は -ina。他に -etto(女性形 -etta)も縮小の接尾語。Allegro → Allegretto など。
  2. Boyden & Woodward, “Viola” in The New Grove Dictionary of Music, vol.26 (Macmillan, 2001), p. 687.
  3. 同 p. 691。他の3曲は、J. M. Dömming、A. H. Gehra、G.Graun の作(実はグラウン以外は初めて見た名前です)。この4曲以外のほとんどは、他の楽器のための協奏曲のアレンジ。以前ヘンデル作とされたロ短調の協奏曲のように、後世の人(この場合はヴィオラ奏者アンリ・カサドシュ)がバロック風に作ってしまった作品もありました。
  4. 場合によってはヴィオローネやコントラバスも、通奏低音楽器としてソナタに参加しました。

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