聖フィル第4回定期演奏会は期せずして、交響曲で音楽会が始まる18世紀的なプログラム構成になりましたが(コラム (17) や (19) を参照のこと)、そのオープニング曲である第39番変ホ長調の交響曲を、モーツァルトは1788年6月26日に完成しました。続く40番ト短調は同年7月25日に、第41番ハ長調は8月10日に完成しています。なぜ1788年にこのように立て続けに交響曲を完成する必要があったのかは謎なのですが、当時としては前衛的とも言える音楽内容が含まれたこの3曲は、モーツァルトの三大交響曲と呼ばれています。

ところで、どうして作品の完成日がこれほど細かくわかるか、ご存知ですか? モーツァルト自身が『全自作品目録』に記録していたからです。彼は、1784年2月9日のピアノ協奏曲第14番変ホ長調以降、曲が完成するたびに、左ページに日付、通し番号、曲名、編成を、右ページに冒頭の数小節の音楽を、大譜表(ピアノに使われる書き方。オーケストラ曲も簡略化)の形で書き込んでいました。今で言う著作権を意識するようになったわけですね。

聖フィル団員の1人が、この『全自作品目録』の一部が含まれるモーツァルトの肖像付きイラストを、楽譜の表紙にしていました(図1)1。さて、目録はどこでしょう?(以下,図はすべてクリックすると拡大されます)

図1 肖像付きイラスト

そうです、一番下の部分です(図2)。肖像画の下方左側の楕円形、右側の長方形は、いずれもモーツァルトの予約演奏会の入場券。四角い方は、自由音楽家(コラム(10)参照のこと)としての絶頂期とも言える、1784または85年の演奏会のものです。それらの下方に、『全自作品目録』最初のページの下部約1/3が見えます。日付や番号部分は隠れていますが、右側の一番下の楽譜は、目録5曲目のエントリーである、ピアノ協奏曲第17番ト長調の冒頭4小節。その左側には編成の一部、2 violini, 2 viole(ママ), 1 flauto, 2 oboi, 2 fagotti, という文字。その上は4曲目のエントリーで、ピアノと木管楽器のための五重奏曲。楕円形チケットの右に、編成の最後の部分 (1 cor-)no, et 1 fagotto が見えます。

図2 下部拡大図

数小節ずつの譜例には、速度記号(ピアノ協奏曲冒頭の All:º =Allegro) や強弱記号(ピアノ協奏曲冒頭に p、五重奏曲には、見える範囲で f  が4個!)も書き込まれています。モーツァルトがとても几帳面にカタログを作っていたことが伺えて、微笑ましいですね。

ちなみに肖像画上部の楽譜は、4段に書かれていて上の2段が下の2段より複雑ですから、弦楽四重奏曲のスコアと見当がつくでしょう。プロイセン王四重奏曲第1番とよばれる、弦楽四重奏曲第21番ニ長調の第1楽章冒頭の自筆譜です。こちらはかなり急いだ感じの筆跡です。王の委嘱作品を、早く完成させたかったのかもしれませんね2

  1. 日本で購入した 15cm × 10cm ほどの輸入カードを、拡大コピーしたのだそうです。kr-ohさんのご協力に感謝します。Caspari Ltd. 製で、Linda Jade Charles のデザイン。Amazon.com では、ほぼ同じデザインのポスターが販売されていました。
  2. 上部余白のN. 34が何の番号かは不明。中央のモーツァルトのサインは、この自筆譜ではなく他に書かれたものからのコラージュです。肖像画の上は、6曲一組で出版された3種類のヴァイオリン・ソナタ集のうちの、いずれかの表紙と思われます。肖像画の左右、女人像柱カリアティードが並ぶイラストは、他の出版譜、あるいは劇作品(《魔笛》? )の背景デザインの一部でしょうか。