前回のコラム「(14) モーツァルトが作った交響曲はいくつ?」に対してエスプリッコさんからいただいたコメントを読んで、もう少し古典派交響曲が成立するまでの「交響曲」について書きたくなりました。以前、聖フィル・ミニ・レクチャーでも触れたことがありますが、1720〜1810年の間に演奏会に現れた交響曲は、16,558曲にのぼるそうです1。小数点ではありませんよ。一万六千五百五十八曲! これは、全曲または冒頭が記録に残っているものの合計ですから、失われてしまったものを加えると、膨大な数になるはずです。

シンフォニーアというのは、イタリア語でシンフォニーのことです。たとえばベートーヴェンは、交響曲第3番を『シンフォニーア・エロイカ』と記しました(シンフォニーアは女性名詞ですので、後の形容詞も「エロイコ」ではなく「エロイカ」と女性形に変化しています)。ただ、音楽史でシンフォニーアというと、交響曲というジャンルの最も大切な源、およびそこから成長して行く、成熟する前の交響曲を指すのが一般的です2

この16,558曲以上の中で一般に知られているものは、ベートーヴェンの数曲(正確には6番まで)と、モーツァルトの約50曲、ヨーゼフ・ハイドンの約100曲くらいでしょうか。私は、モーツァルトが影響を受けたヨハン・クリスティアン・バッハ((11) 旅によって成長したモーツァルト参照)のシンフォニーアCDを3枚、その兄カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜88)のシンフォニーア集を1枚と、サンマルティーニ(1700/01〜75)とヨハン・シュターミツ(1717〜57)のシンフォニーア数曲ずつの音源を持っていますが、これ全部で30数曲3。ハイドンやモーツァルトを加えても、16,558曲の2%にも満たないのです。本当にものすごい数!

これほどたくさんのシンフォニーアや交響曲が作られた理由については、次回のコラムをお楽しみに。ちなみに、ハイドンが最後に作った交響曲は104番ですが、総数は106です。

  1. ラルー編纂『18世紀交響曲主題目録』の収録数。平野昭『ベートーヴェン事典』東京書籍、1999、22ページ。石多正男は「12,350曲以上のシンフォニーアや交響曲があった」と書いています(『交響曲の生涯』東京書籍、2006、302ページ)が、出典が不明であるため、上記の数に訂正しました。
  2. エスプリッコさんが挙げていたヨハン・メルヒオール・モルター(1696〜1765)の「交響曲」も、もちろんこのシンフォニーアですね。
  3. この中の、J. C. バッハのシンフォニーア op. 18−4は、ここから試聴出来ます。ジンマン指揮のCDより、テンポが遅めです。