以前、ベートーヴェンの第5交響曲の第1楽章には『運命動機』がたくさん使われていて、まるでふりかけごはんだと書きました(コラム(2)(3)参照)。ところが、先日の聖フィル練習のときに、指揮の高橋隆元先生が、第2主題提示後のヴィオラとコントラバスの『運命動機』(84小節〜)を、「借金取りが、借金を踏み倒されないように迫って行く感じで」と言われたのです。

大学の一般教養の音楽で《運命》を扱うときなどはよく、スコアの初めの方の、様々なパートに八分音符3つ+四分音符1つのパターンが書かれているページを見せて、「『運命動機』がふりかけみたいにたくさん使われているでしょ。これは『主題動機労作』の例で……」と教えるのですが、確かに自分で演奏するのに、そんな悠長なことを言っている場合ではありませんでした。借金取りの厳しい取り立てのように、たたみこむ感覚が必要ですね。いつもながら、的確かつユーモラスな高橋先生の比喩に脱帽!

とすると、第2楽章76小節以降の変形された『運命動機』(コラム (5) 参照)は、第1楽章のしつこい取り立てになんとか耐えて、借り手がほっと一息ついている一方で、決してあきらめない借金取りは遠くから狙いを定めていて、その影がかすかに見え隠れする感じ……かな?